営業やマーケティングに革命を起こすAIリップシンク技術。赤ちゃんの姿で商品を売る?見た目と声を自在に変えられるこの技術が、対話の質や信頼関係をどう変えるのか。活用事例や倫理面の課題も含め、ビジネス活用の可能性を深掘りします。
AIが進化すればするほど、マーケティングや営業の在り方も大きく変わっていきます。今までは「相手のペルソナに合わせて話し方や言語を変える」ことがパーソナライズの王道でしたが、これからは「見た目すら変える」ことが当たり前になりつつあるのです。
映画『バイオハザード』に登場するAIホログラムをご存じですか?少女の姿をしたAIが、感染者(ゾンビ)を排除する役割を担っていました。なぜ“少女”の姿なのか。それは、見た目が与える印象や感情への影響が極めて大きいからです。
たとえば、小さな女の子の姿で話しかけられると、人はつい優しく接したくなったり、反論しにくくなったりするものです。これは心理学でも証明されており、「ベビーフェイス効果」と呼ばれています【Zebrowitz, L. A. (1997). Reading Faces: Window to the Soul?】。
この記事は2025年5月15日に Podcast にて配信した音声を元に作成しています。 Podcast も合わせてお聞きください。
実際に僕も、Podcast収録に使っている「Riverside」というスタジオに新しく追加されたアニメーション生成機能を試してみました。録音した音声に合わせてアバターが自動的にリップシンクするというもの。選べるアバターには「赤ちゃん」や「宇宙人」「ジブリ風」など多彩なものがあります。
この動画にRiverside.fmでアニメーションする方法が紹介されています。簡単すぎてビックリです。
たとえば、赤ちゃんのアバターを使って、「このオムツはかぶれなくて気持ちいいよ、ママにおすすめだよ〜」と話せば、ママ世代のユーザーには圧倒的な親近感と説得力をもたらすことができるのです。
逆に、同じ内容を中年男性が堅苦しいトーンで説明したら…多くの人は“売り込まれている”と感じてしまうでしょう。このように、「誰が話すか」がこれからの時代の勝負どころになるのです。
ただし、すべてがうまくいくわけではありません。僕も実際に赤ちゃんのアバターを使ってみたところ、「見た目は可愛い外国人の赤ちゃん」なのに「声は完全におじさん」のままだったため、正直なところ違和感がありました(笑)。
この体験から分かるのは、脳が“見た目”と“声”を無意識にセットで処理しようとするという点。つまり、見た目と声がマッチしていないと、違和感が生まれ、信頼を損ねることもあるのです。
ジブリ風?にもしてみました。少し、怖い・・・笑
最近のInstagramでも、顔出ししていないはずのAI解説系の女性社長アカウントを見つけました。声は本人、体も本人。でも顔だけはAI生成。しかも笑顔も自然すぎて「この人、本当にいるんじゃ?」と思ってしまうほどです。
このように、一部だけAIで加工しながらリアルに見せる“ハイブリッド表現”がすでに浸透しています。
これは良くも悪くも使われるでしょう。たとえば、詐欺などの悪用も懸念されます。「相手の好みに合わせて見た目を変える」ことが簡単になれば、信頼を装う詐欺は増えるでしょう。
一方で、この技術が中小企業の営業やマーケティングを加速させる可能性も大いにあります。
例えば、日本人がアメリカ人に商品を売る場合、そのAIアバターがスペイン系やアフリカ系の顔立ちで話すことで、相手に親近感を与えやすくなるかもしれません。これはもはや「営業は外見も含めてローカライズする時代」に入ったとも言えます。
これまで話し方や言語だけでカスタマイズしていたパーソナライズ戦略が、アバター表現まで含めたトータル・コミュニケーション設計に進化しているのです。
少し飛躍したアイデアかもしれませんが、介護や医療分野にもこの技術は活用できるのではないかと思います。
たとえば、認知症のお年寄りが、過去の記憶で最も鮮明な「20代の夫」のアバターと対話できたとしたらどうでしょう?あるいは猫の姿で話しかけることで安心感を与えるなど、相手の“認知レベル”に合わせて表現を変えることで、心の扉を開くきっかけになるかもしれません。
技術は日々進化しています。僕自身も「赤ちゃんのアバターは自分には合わなかった」という気づきを得て、次は違うアニメーションを試してみようと思っています。大切なのは、実験してみること、試してみることです。
そして、このようなAI技術は、もはや映画や未来の話ではありません。今、目の前にあるリアルなツールとして、あなたのビジネスにも大きなインパクトをもたらすはずです。