「どうして、こんな簡単なことができないんだ…」
部下の仕事ぶりを見て、思わずそう呟いてしまった経験はありませんか？
かつてトッププレイヤーとして誰よりも成果を上げてきたあなたなら、なおさらかもしれません。自分がやれば数時間で終わる仕事に、部下が丸一日かけている。その姿に、もどかしさと焦りを感じてしまう。
そして、最近あなたの心をさらにざわつかせる存在がいます。
「AI（人工知能）」です。
あなたがこれまで「管理」してきた進捗確認やデータ分析といった業務を、AIは文句ひとつ言わず、24時間365日、驚異的なスピードと正確さでこなしてしまう。
「このままでは、自分の仕事はAIに奪われるのではないか…」
「管理職としての自分の価値は、一体どこにあるのだろうか？」
そんな漠然とした、しかし確かな不安を抱えるあなたにこそ、今日はお伝えしたいことがあります。
結論から言いましょう。
AI時代、あなたの仕事はもはや「管理」ではありません。そして、あなたの価値は、あなたがプレイヤーとして優秀だった過去の実績とは、まったく別の場所に生まれるのです。
これは、単なるスキルの話ではありません。マネージャーとしての”あり方”そのものを、根底から変革する「生存戦略」の話です。
ポッドキャストもお聴きください。
迫りくる現実、なぜ「デキる管理職」ほど危険なのか？
多くの企業で、AI導入が急速に進んでいます。しかし、その裏側で起きているのは、必ずしもバラ色の未来ではありません。
「AIを導入したのに、現場の生産性が上がらない」
「むしろ、新しいツールを覚える手間が増えて、仕事が煩雑になった」
なぜ、こんなことが起きてしまうのでしょうか。
その原因の多くは、マネージャーの役割が旧時代のままアップデートされていないことにあります。
これまでの管理職は、いわば「工場のラインを管理する工場長」でした。決められた仕事を、いかに効率よく、ミスなく進めるか。そのための進捗管理、タスクの割り振り、部下への詳細な指示出しが、主な仕事でした。
あなたも、プレイヤー時代の成功体験を基に、「自分のやり方」を部下に教え、その通りに実行させることで、チームを動かしてきたのではないでしょうか。
しかし、その「工場長モデル」は、AIの登場によって、もはや過去のものとなりつつあります。なぜなら、AIは史上最強の工場長だからです。彼ら以上に正確で、スピーディーにラインを管理できる存在はいません。
あなたがこれまで武器にしてきた「管理能力」や「プレイヤーとしての実行力」は、残念ながら、AIに代替されていく領域なのです。
だからこそ、不安になるのです。
しかし、希望はあります。AIが決して代替できない、人間にしかできない、新しい役割があなたを待っているからです。
結論、未来のマネージャーは「オーケストラの指揮者」になる
AI時代の新しいマネージャー像。
それは、オーケストラの指揮者（コンダクター）です。
想像してみてください。指揮者の前にいるのは、多種多様な楽器を奏でるプレイヤーたちです。ヴァイオリン、チェロ、トランペット、打楽器…。それぞれが持つ音色、特性、得意なフレーズは全く異なります。
指揮者の仕事は、自分が世界一のヴァイオリン奏者になることではありません。それぞれの楽器の特性を深く理解し、最高のタイミングでタクトを振り、個々の音を一つの美しいハーモニーとして昇華させることです。
これからのあなたのチームも、まさにこのオーケストラと同じです。
あなたの前には、2種類の全く異なるプレイヤーが存在することになります。
- 人間プレイヤー
彼らの強みは、共感性、創造性、そして「ちむぐくる（沖縄の言葉で、思いやりの心）」です。顧客の言葉にならない感情を汲み取ったり、常識を覆すような新しいアイデアを生み出したり、仲間を励まし、チームに一体感をもたらしたりすること。これらは、人間にしか奏でられない美しい音色です。
- AIプレイヤー
彼らの強みは、膨大なデータ処理能力と、高速なパターン認識です。市場のトレンド分析、膨大な議事録からの要点抽出、定型的なレポート作成など、人間がやると時間もかかり、ミスも起こりがちな作業を、圧倒的な精度でこなします。
これからのマネージャー、すなわち「指揮者」であるあなたの仕事は、もはや部下のタスクを細かく管理することではありません。
あなたのチームが向き合っている”楽曲（＝ビジネス目標）”を最高の形で演奏するために、どのパートを人間に任せ、どのパートをAIに任せるのか。その采配を振ることこそが、あなたの新しい価値になるのです。
明日から始める第一歩：「業務の分解」と「再設計」
「指揮者になれ、と言われても、具体的に何をすればいいんだ？」
そう思われたかもしれません。
指揮者としての最初の仕事は、非常にシンプルです。それは、「今ある業務を、パズルのように分解し、もう一度組み直すこと」です。
例えば、あなたが毎週行っている「営業進捗会議」を題材に考えてみましょう。
これまでのあなたは、会議のすべてを自分で仕切り、管理していたかもしれません。
しかし、この会議という一つの業務も、細かく分解できます。
- 各営業担当者への実績報告依頼
- 集まってきたデータの集計とグラフ作成
- 会議のアジェンダ作成
- 会議のファシリテーション（議論の活性化）
- 決定事項の議事録作成
- ネクストアクションの担当者割り当てとリマインド
- 目標未達のメンバーへの個別フォローと精神的なケア
さあ、指揮者として、これらのタスク（ピース）を見てみましょう。
どれをAIに任せ、どれを人間がやるべきでしょうか？
- AIが得意なピース: (1), (2), (5), (6)
- データ集計や定型的なリマインドは、まさにAIの独壇場です。RPAや各種AIツールを使えば、ほぼ自動化できるでしょう。
- 議論を活性化させ、メンバーから本音を引き出すファシリテーション。悩んでいるメンバーの心に寄り添い、モチベーションを高める1on1。これらは、共感性や創造性が求められる、人間にしかできない仕事です。
- アジェンダ作成は、AIにたたき台を作らせ、人間が最終的に「今回の会議で最も重要な論点は何か？」という魂を吹き込む、といった協業が考えられます。
このように、業務を分解し、AIと人間のピースを最適に組み直す（再設計する）こと。これが、指揮者としてのあなたの最初のタクトのひと振りです。
この再設計によって、あなたは週次のデータ集計のような「管理業務」から解放されます。そして、その空いた時間で、メンバーとの対話や、新しい戦略を考えるといった、より付加価値の高い「人間らしい仕事」に集中できるようになるのです。
あなたの価値は、もう「管理」ではない
AIの登場は、私たち管理職にとって、危機であると同時に、大きなチャンスでもあります。
それは、長年私たちを縛り付けてきた「管理」という名の雑務から解放され、本来人間がやるべきだった、より創造的で、より人間的な仕事に回帰するチャンスです。
部下の仕事ぶりを見て、「自分がやった方が早い」と感じる必要はもうありません。なぜなら、あなたより早く、正確にできる「AI」という名の新しい部下がいるからです。
あなたの役割は、プレイヤーとしてゴールを決めることではありません。
人間とAI、2種類のプレイヤーそれぞれの強みを最大限に引き出し、チームというオーケストラで、顧客の心を震わせるような最高のハーモニーを奏でること。
そのタクトは、あなたにしか振ることができません。
さあ、今日から「工場長」の帽子を脱ぎ、指揮棒を手に取ってみませんか？
あなたの本当の仕事は、そこから始まります。
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By Hiroki Teruya
