地方の中小企業経営者様へ。AI活用はチャットGPTの次へ進んでいます。本記事ではGoogleの無料ツール『NotebookLM』を使い、売上データと地域情報を基に高精度な需要予測を行う方法を具体的に解説。勘と経験に頼る経営から脱却し、コストを削減するヒントを提供します。
この記事は2025年6月8日に ポッドキャストにて配信した音声を元に作成しています。ポッドキャストも合わせてお聞きください。
AIの話題、自社には「関係ない」と思っていませんか?
日々、経営の最前線で奮闘されている地方の中小企業の経営者の皆様、本当にお疲れ様です。

最近、ニュースや新聞で「AI」の文字を見ない日はありません。「女子高生の相談相手はAIチャット」「AIが作ったCMが話題に」…そんな華々しい話題を見聞きするたび、「それは都会の大企業の話。うちのような地方の小さな会社には、まだ関係ない遠い未来の話だ」と感じてはいないでしょうか。
あるいは、数年前に流行った「ChatGPT活用セミナー」に参加し、チラシの文章を作ったり、メール文を考えさせたりした経験はあるかもしれません。しかし、「便利だけど、経営が劇的に変わるほどではなかったな」というのが正直な感想ではないでしょうか。
もし、そう感じているなら、ぜひこの記事を最後までお読みください。
実は、皆様が体験したAI活用は、ほんの序章に過ぎません。AIの世界は日進月歩ならぬ「秒進分歩」で進化しており、今や中小企業の経営そのものを根底から変革する、新たなステージに突入しています。
この記事では、「AI = 文章作成ツール」という古い常識をアップデートし、AIを自社の経営戦略を左右する”右腕”として活用する方法を、具体的なツール名や手順を交えて徹底的に解説します。
読み終える頃には、長年の「勘と経験」に頼った経営から脱却し、データに基づいた高精度な「売上予測」を行い、無駄なコストを劇的に削減するための、明確な道筋が見えているはずです。
なぜ今、中小企業にこそAI活用が必要なのか?
AI活用は、もはや一部の先進的な大企業の専売特許ではありません。むしろ、様々な課題を抱える地方の中小企業にこそ、その恩恵は大きいと言えます。

人手不足、コスト増…地方企業が直面する厳しい現実
地方における経営環境は、年々厳しさを増しています。深刻な人手不足、原材料費や光熱費の高騰、後継者問題…。限られたリソースの中で、日々の業務を回すだけで精一杯、という経営者の方も少なくないでしょう。
新しい事業を考えたり、業務改善に取り組んだりする時間も意欲も、日々の忙しさの中に埋もれてしまいがちです。このような状況で、従来のやり方を続けていては、会社の成長はおろか、存続すら危うくなる可能性があります。
「勘と経験」頼りの経営の限界
多くの中小企業経営者が、長年培ってきた「勘と経験」を頼りに重要な意思決定を行っています。「この時期は忙しくなるから、少し多めに仕入れておこう」「そろそろ新商品を出すタイミングかな」といった判断は、これまでは会社の成長を支える大きな武器でした。
しかし、市場のニーズが多様化し、変化のスピードが激化した現代において、勘と経験だけに頼る経営は限界を迎えつつあります。勘が外れれば、過剰在庫や機会損失に直結し、会社の体力を少しずつ奪っていきます。
大企業だけの特権ではない!AI活用の民主化
かつて、精緻なデータ分析や需要予測は、専門の部署と高価なシステムを持つ大企業だけができる「特権」でした。しかし、AI技術の進化とクラウドサービスの普及により、状況は一変しました。
今や、中小企業でも、ほとんどコストをかけずに大企業並みのデータ分析ができる環境が整ったのです。これを「AI活用の民主化」と呼びます。この革命的な変化を活かせるかどうか、それこそが、これからの時代を生き抜く中小企業にとっての大きな分水嶺となるのです。
「AI=文章作成ツール」はもう古い!経営を変える「AIエージェント」とは?
「AI活用」と聞いて、多くの方がイメージするのは、ChatGPTに代表されるような文章生成AIではないでしょうか。しかし、それは2〜3年前の、いわば「第一世代」のAI活用です。

第一世代のAI活用:チャットGPTでの文章・画像生成
数年前、ChatGPTの登場は衝撃的でした。議事録の要約、メール文の作成、ブログ記事の叩き台、チラシに使うキャッチコピーのアイデア出し、さらには補助金の申請書作成まで…。これまで人間が時間をかけて行っていた作業を、AIが一瞬でこなしてくれるようになったのです。
これは確かに画期的であり、多くの企業の業務効率化に貢献しました。しかし、その本質はあくまで「人間が行う作業のサポート」であり、「点」での活用に留まっていました。
次世代のAI活用:自律的に働く「AIエージェント」の登場
そして今、AI活用は次のステージ、「AIエージェント」の時代へと移行しています。
「エージェント」とは「代理人」を意味します。AIエージェントとは、単に指示された作業をこなすだけでなく、特定の目的を与えれば、自律的に情報を収集・分析し、複数のツールを連携させながら最適な答えを導き出してくれる存在です。
映画『マトリックス』に出てきた、黒いスーツのエージェントを思い浮かべてみてください。彼らは特定の目的のために、プログラムの中を自律的に動き回り、様々な手段を講じていました。あのイメージに近いものが、ビジネスの世界で現実になりつつあるのです。

これからのAIは、社長の「代理人」として、あるいは超有能な「デジタル番頭」として、経営判断を強力にサポートするパートナーとなるのです。
単体ツールから「統合プラットフォーム」へ
このAIエージェントの時代では、ChatGPT、Google Gemini、Claudeといった個別のAIツールを単発で使うというよりは、普段使っている様々なクラウドサービス(会計ソフト、顧客管理システム、Google Workspaceなど)にAIが組み込まれ、それらが裏側でシームレスに連携する形が主流になります。
経営者は、複数のツールを使い分ける必要なく、ただAIエージェントに問いかけるだけで、社内外のあらゆるデータを統合・分析した結果を得られるようになるのです。
【実践編】Google「NotebookLM」で売上予測を自動化する具体的なステップ
「AIエージェントの話は分かった。でも、具体的にどうすればいいんだ?」
そんな声が聞こえてきそうです。ここからは、今日からでも始められる、極めて具体的なAI経営の実践方法をご紹介します。使うのは、なんとGoogleが提供する無料ツール「NotebookLM」です。

ステップ1:AIの”脳”となる「NotebookLM」とは?
NotebookLMは、一言で言えば「あなただけの、あなた専用のAIブレインを作れるツール」です。
一般的なChatGPTなどが、インターネット上の膨大な情報を元に回答するのに対し、NotebookLMは、あなたがアップロードした資料(ソース)の中の情報だけを元に、質問に答えたり、要約したりしてくれます。
つまり、自社の機密情報や専門的なデータを外部に漏らすことなく、安全に「自社専用のAI」を育てることができるのです。これを私たちは「AI番頭」と呼ぶことにしましょう。
ステップ2:AIに”学習”させる2種類のデータを用意する
この「AI番頭」を賢く育てるために、まずはエサとなる「データ」を用意する必要があります。データは大きく分けて2種類です。
① 自社データ(コントロールできるデータ)
これは、自社で管理している内部データのことです。
- 売上データ(POSデータ):いつ、何が、いくつ、いくらで売れたか。可能であれば過去数年分あると理想的です。多くのレジシステムからCSV形式などで出力できます。
- 商品データ:商品の特徴、価格、原価などの情報。
- 在庫データ:日々の在庫の推移。
- 顧客データ:会員情報や購買履歴など。
これらのデータは、会社の最も貴重な資産です。まずは、これらのデータをExcelやCSVファイルに整理することから始めましょう。
② 外部データ(コントロールできないデータ)
これは、自社の努力では変えられない、外部の環境データのことです。
- 天気データ:過去の天気予報のデータ。気象庁のウェブサイトなどから入手できます。
- 地域のイベント情報:市町村の観光協会や公式サイトに掲載されている、お祭り、花火大会、スポーツ大会などの年間スケジュール。
- 学区の学校行事:近隣の小中学校のウェブサイトにある、入学式、卒業式、運動会、文化祭などの年間行事予定。
- 競合の動き:近隣のライバル店のチラシやSNS情報など。
これらの情報は、インターネットで検索すれば無料で手に入るものがほとんどです。
ステップ3:NotebookLMにデータを投入し、「AI番頭」を育てる
データが準備できたら、いよいよAI番頭の育成です。

- GoogleアカウントでNotebookLMにログインします。
- 「新しいノートブック」を作成します。例えば「クッキー屋売上予測」といった名前をつけます。
- 「ソース」セクションに、先ほど用意したExcelファイル(テキストに変換もしくはPDFに変換)や、イベント情報のURL、コピー&ペーストしたテキスト情報などを、どんどん投入していきます。PDF、テキストファイル、Googleドキュメント、ウェブページのURLなど、様々な形式に対応しています。
対応ファイル形式: PDF, .txt, Markdown, 音声(例: mp3)
たったこれだけです。NotebookLMは、投入されたデータを自動的に読み込み、内容を理解し始めます。
NotebookLMから情報を調べて追加することも可能です。

ステップ4:AIに質問し、高精度な「売上シミュレーション」を行う
AI番頭がデータを学習したら、いよいよ対話の始まりです。右側のチャット欄に、人間と話すように自然な言葉で質問を投げかけてみましょう。
【事例:地方のクッキー屋さんの場合】
あるクッキー屋の店主が、NotebookLMに自社の過去3年間の売上データ、地域の天気データ、近隣の小学校の行事予定を学習させました。そして、こう質問します。
「来年3月の卒業式シーズンに向けて、ギフト用のクッキー詰め合わせAは、何個くらい準備しておくべきですか?過去のデータと、来年の小学校の卒業式の日程を考慮して予測してください。」
すると、AI番頭は即座に回答します。

「過去3年間のデータを分析した結果、小学校の卒業式の週は、ギフト用クッキー詰め合わせAの売上が通常週の平均2.5倍になる傾向があります。来年の〇〇小学校の卒業式は3月18日ですので、3月15日〜20日の週には、約150個の需要が見込まれます。また、この週は晴れの予報が多いため、客足が伸びる可能性も考慮すると、160個〜170個程度の準備を推奨します。材料の発注は2週間前の3月1日頃に行うのが最適です。」
どうでしょうか。 これまで店主が「そろそろ卒業式だから、忙しくなるぞ。勘でこれくらい作っておくか」とやっていたことが、具体的な数値と根拠に基づいた「予測」に変わったのです。これにより、作りすぎて廃棄ロスを出すことも、逆に作り足りなくて販売機会を逃すこともなくなります。これが、中小企業でもできる「データ経営」の第一歩です。
※データの精度が全てになります。売上については日販データ、ソースとする情報も正確な情報を入れてください。
AI時代の経営者に求められるものとは?
このように、AIが経営のあらゆる場面で活躍する時代において、経営者の役割も変化していきます。

AIを「部下」ではなく「パートナー」として捉える思考法
AIは、単に指示を待つだけの部下ではありません。データに基づいた客観的な視点を提供してくれる、頼れる「パートナー」です。AIが出してきた分析結果に対して、「なぜそう言えるのか?」「別の可能性はないか?」と問いを重ね、対話を深めることで、より質の高い意思決定に繋がります。
最終的な意思決定と倫理観は「人間」の領域
どれだけAIが優れた分析をしても、最後の決断を下すのは経営者であるあなたです。データは過去の事実ですが、未来を創るのは経営者のビジョンと決断力です。また、AIは倫理的な判断ができません。そのサービスが社会にどう受け入れられるか、従業員の幸せに繋がるか、といった倫理観に基づく判断は、人間にしかできない重要な役割であり続けます。
映画『アーカイブ』に学ぶ、AIと人間の共存の未来
少し未来の話をすると、AI技術は私たちの「生き死に」の概念さえも変えていくかもしれません。亡くなった人の写真や音声データから、生前のように対話できるAIアバターを創るサービスも既に登場しています。
映画『アーカイブ』では、事故で亡くなった妻の意識をデータとして保存し、ロボットの中で生き続けさせようとする科学者の物語が描かれます。これはもはやSFの世界ではなく、私たちがこれから向き合う現実の問題です。ネタバレになるので、詳細は記載しませんが、おすすめです。
自社が提供するサービスは、社会にとって本当に良いものなのか。技術の進化の先に、どんな未来を描くのか。こうした哲学的な問いに向き合うことも、これからの経営者には求められてくるでしょう。
まとめ:未来を見据え、今日から「AI経営」の準備を始めよう
本記事では、AI活用が新たなステージに入ったこと、そして地方の中小企業こそが、その恩恵を最大限に受けることができる可能性について、具体的な方法を交えて解説してきました。

ポイントを振り返りましょう。
- 「AI=文章作成ツール」という考えは古い。これからは自律的に働く「AIエージェント」の時代。
- Googleの無料ツール「NotebookLM」を使えば、専門知識がなくてもAIによるデータ分析が可能。
- 「自社データ」と「外部データ」をAIに学習させることで、勘に頼らない高精度な「売上予測」が実現する。
- これにより、無駄な在庫やコストを削減し、経営の安定化と成長に繋がる。
AIは、仕事を奪う脅威ではありません。むしろ、人手不足やコスト増に悩む中小企業の可能性を最大化してくれる、最高の武器であり、頼れるパートナーです。
変化の激しい時代だからこそ、未来を恐れるのではなく、未来を見据えて今日から準備を始めることが重要です。まずはこの記事を参考に、自社のデータを整理し、Google「NotebookLM」を触ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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