先日、マーケティングメディア「MarkeZine(マーケジン)」に掲載された、高広伯彦氏とマツリカ中谷氏の対談記事『さらばデジタル看板。歴史的変遷が示すAI時代のウェブサイトの価値筋』を拝読し、これからの時代の戦い方が明確に見えた気がしました。
これまで私たちが信じてきたインバウンドマーケティング」の常識が崩れつつある今、企業はどう動くべきなのか。音声配信で語った内容を、より深く掘り下げて解説します。
この記事は Podcast で安心した音声を元に作成しています ある Podcast も合わせてお聞きください。
1. 「デジタル看板」としてのウェブサイトの終焉
これまで、BtoB企業のウェブサイトは、いわば「デジタル看板」でした。
ハブスポットが提唱し、多くの企業が取り入れた「インバウンドマーケティング」の基本構造は、「情報の等価交換」です。企業は有益なホワイトペーパーや事例記事を提供する代わりに、見込み客(リード)は自分の名前やメールアドレスといった個人情報を提供する。このギブ・アンド・テイクが成立していました。
しかし、生成AIの登場がこの前提を根底から覆しました。
AIの「養分」になっていないか?
ChatGPTなどのAIは、ネット上のあらゆる情報を学習し、ユーザーの質問に対して瞬時に、的確な回答を返します。その結果、何が起きているでしょうか。
- 顧客の自走化: 顧客は企業に問い合わせる前に、AIを使って自力で情報を収集し、課題の整理まで終えられるようになりました。
- アクセスの激減: 私たちの自社ブログでも実際に起きていますが、検索経由のアクセス数が目に見えて減少しています。
私たちが一生懸命作成して公開したコンテンツは、見込み客を引き寄せる前に、AIに学習され、単なる「AIの養分」として消費されてしまっているのです。情報を出せば出すほどAIが賢くなり、自社サイトへの流入は減るというジレンマ。これが現在の「デジタル看板」モデルの限界です。
2. 「THE MODEL」の呪縛と日本企業の現実
アメリカでは、営業(Sales)とマーケティング(Marketing)が完全に分業化された「THE MODEL」型の組織が主流です。しかし、このモデルが全ての日本企業に適しているわけではありません。
日本では、マーケティング専門の部署を持たず、営業担当が一貫して顧客を担当するケースも多々あります。高広氏が提唱するのは、無理に分業するのではなく、「営業の中にマーケティング機能を内包する」というアプローチです。
顧客への初期説明や情報提供といった時間は、AIやデジタルツールで極限まで効率化し、浮いた時間で人間が本来やるべきこと——つまり、顧客と共に新しい価値を作り出すプロセスに注力すべきなのです。
3. ポスト・インバウンド:「価値交換」から「価値共創」へ
これからのキーワードは、「ポスト・インバウンドマーケティング」です。従来の「情報をあげるから、個人情報をください」という一方的な交換ではなく、「価値共創(Co-creation)」へとシフトする必要があります。
コトラーやドラッカーが説くように、マーケティングの本質は「売上を作ること」でも「リードを集めること」でもなく、「顧客にとっての価値を創造すること」にあります。顧客自身が多くの情報を持っている今、企業は「先生」として教える立場ではなく、「パートナー」として共に正解を探す立場になるべきなのです。
4. 【具体的戦略】NotebookLMとGeminiを活用した「共創」モデル
では、具体的にどうすればいいのか。私が構想している、今すぐ実践可能なAI活用のアクションプランをご紹介します。
ステップ1:社内ナレッジの「NotebookLM」化
まずは自社内で、顧客との打ち合わせ内容、提案資料、業界知識などをGoogleの「NotebookLM」に集約します。これにより、特定の営業担当者だけでなく、チーム全体がクライアントの「文脈(コンテキスト)」を深く共有・理解できる環境を作ります。
ステップ2:ホワイトペーパーの代わりに「Gem(AI)」を配る
ここが最大のポイントです。これまではPDFの資料(ホワイトペーパー)をダウンロードさせていましたが、これからは自社ノウハウを学習させたカスタムAI(GeminiのGems)」そのものを提供してはどうでしょうか。
- 顧客のメリット: 面倒なプロンプト入力なしに、自社の課題を入力するだけで、プロのノウハウに基づいた回答が得られる。
- 企業のメリット: 圧倒的に利便性の高いツールを提供することで、質の高いリード(メールアドレス)を獲得できる。
ステップ3:ビジネスモデルの転換
顧客は提供されたAI(Gem)を使って、基礎的な課題解決や壁打ちは自分で行います。しかし、AIではどうしても解決できない複雑な課題や、実行支援が必要なフェーズが必ず訪れます。その時こそ、対価を払って人間に依頼するタイミングです。
「AIで解決できることは無料で提供し、AIで解決できない高度な価値に対価をいただく」これこそが、AI時代の新しいビジネスモデルであり、真の価値共創の姿ではないでしょうか。
AIを使いこなしながらも、AIにはできない人間としての感性を磨く。このバランスこそが、これからのマーケターに求められる資質なのかもしれません。