「部下に指示が伝わらない…」と悩む新米マネージャーのあなたへ。本記事では、チームの生産性を下げてしまうNGな伝え方と、明日から使える3つの改善策(事実と意見の分離、目的の共有、PREP法)を徹底解説します。あなたのチームが変わるきっかけになれば幸いです。
この記事は2025年7月4日に ポッドキャストにて配信した音声を元に作成しています。 Podcast も合わせてお聞きください 。また記事の下部にはコミュニケーションが円滑になるための簡単な⚪︎×ゲームを紹介していますのでぜひ遊んでみてください。
「部下が使えない…」そう思う前に、一度だけ考えてみてほしいこと
「どうして、期待通りに動いてくれないんだ…」 「さっき指示したばかりなのに、もう認識がズレている…」 「良かれと思ってアドバイスしたのに、なんだか部下の表情が曇っている…」
チームを率いる立場になったあなたが、一度は抱えたことのある悩みではないでしょうか。

部下の成長を心から願い、チームの目標を達成するために日々奮闘している。それなのに、コミュニケーションの齟齬で仕事が手戻りになったり、チームの雰囲気が停滞してしまったり。
そして、ふと頭をよぎるのです。
「もしかして、うちのチームメンバーは、仕事ができないんじゃないか…?」
もし、あなたが今、そんな風に感じているのなら、一度だけ立ち止まって考えてみてほしいのです。その問題、本当に「部下」だけが原因なのでしょうか。
私自身、これまで何度も「伝え方」で失敗し、頭を抱えてきました。実は先日、私が配信しているポッドキャストのリスナーさんから、お仕事の問い合わせをいただくという、非常に嬉しい出来事がありました。自分の発信が誰かに届いている。これほど嬉しいことはありません。
なぜこんな話から始めたかというと、発信すること、つまり「伝えること」は、私の仕事の根幹そのものだからです。Webサイト制作とは、突き詰めればクライアントとユーザーのコミュニケーションをデザインする仕事。だからこそ、作り手である私たち自身が、コミュニケーションのプロでなければならない。
そう信じている私でさえ、社内でのコミュニケーションでは未だに失敗の連続です。「指示した通りにアウトプットが出てこないのは、100%、指示を出した側の責任だ」と頭では理解しつつも、歯がゆい思いをすることは日常茶飯事。
この記事は、そんな私が自分自身への戒めも込めて、「チームの生産性を劇的に変える伝え方」について、試行錯誤の末に見えてきた3つの鉄則をまとめたものです。
これは、完璧な上司による成功法則ではありません。むしろ、不完全なリーダーが、もがきながら見つけた実践録です。だからこそ、今まさに同じ悩みを抱えるあなたの心に、少しでも響くものがあればと願っています。
なぜ伝わらない?チームの生産性を蝕む「NGな伝え方」2パターン

本題に入る前に、まずは私たちが無意識にやってしまいがちな、チームの生産性を確実に下げてしまう「NGな伝え方」を2つのパターンに分けて見ていきましょう。ドキッとしたら、それはあなたのチームが変わるチャンスのサインです。
NGパターン1:「事実」と「あなたの意見」のチャンポン地獄
あなたは、部下からの報告や相談に対して、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
「〇〇さん、例のプロジェクト、なんか雰囲気が悪いですよ。多分、クライアントが怒っているんだと思うんです。急いで謝罪しないとマズいですよ、きっと!」
一見、状況の危険性を知らせる熱心な報告に聞こえるかもしれません。しかし、マネージャーであるあなたの立場から見ると、これは悪夢の始まりです。
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「例のプロジェクト」って、今動いているA、B、Cのうち、どれのことだ?
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「なんか雰囲気が悪い」の「なんか」って、具体的に何があったんだ?
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「多分、怒っている」の根拠は? 事実なのか、君の憶測なのか?
このように、「なんか」「多分」「きっと」といった曖昧な言葉で「事実」と「意見(憶測)」がごちゃ混ぜになった報告は、聞いている側を混乱させ、正しい判断を不可能にします。
マネージャーは、この報告を元に、「よし、すぐに謝罪のアポを…いや、待てよ、まずは事実確認か?」と、余計な確認作業に時間を費やすことになります。さらに悪いことに、この「なんかヤバそう」という感情的な部分は、チーム全体に伝播します。根拠のない不安が広がり、本来集中すべき業務からメンバーの意識を逸らしてしまうのです。
これは、指示を出す側も同じです。「この前の件、いい感じで進めといて」では、部下は何をどうすれば「いい感じ」なのか分かりません。結果、「いい感じ」の解釈がズレたまま作業が進み、締め切り直前で「こんなはずじゃなかった…」という悲劇が起こるのです。
NGパターン2:目的も理由もない「丸投げ指示」
次に、多くのマネージャーが、特に忙しい時にやってしまいがちなのがこのパターンです。
「佐藤くん、ごめん!このデータ、今日の15時までに分析しておいてくれる?」
一見、何の問題もない業務指示に見えます。しかし、ここには致命的な要素が欠けています。それは「目的」と「理由」です。
なぜ、このデータ分析が必要なのか? 分析した結果を、誰が、何に使うのか? なぜ、15時までという締め切りなのか?
これらの背景が共有されないままタスクを渡された部下は、その仕事の重要性を理解することができません。彼にとって、その仕事は「ただ言われたからやる作業」になってしまいます。
これでは、仕事の質は上がりません。例えば、「午後の緊急役員会議で、プロジェクト継続の判断材料として使う最重要データだから」という目的が分かっていれば、部下は「ただ分析するだけでなく、役員の方々が見やすいようにグラフも付け加えよう」「判断に迷いそうな異常値があれば、その原因も考察しておこう」と、主体的に付加価値を生み出そうとするかもしれません。
目的や理由が分からない仕事は、ただの「作業」。そこには工夫も、改善も、成長も生まれません。そして、何より部下のモチベーションを著しく削いでしまうのです。「自分はこのチームの一員ではなく、ただの駒なのかもしれない」と。
チームが自走しだす!生産性を劇的に上げる「3つの鉄則」

お待たせしました。ここからが本題です。先ほどのNGな伝え方を改善し、チームの生産性を劇的に上げるための3つの鉄則をご紹介します。これは小手先のテクニックではなく、あなたとチームの関係性を根本から変える力を持つ、普遍的な原則です。
鉄則1:思考をクリアにする『事実と意見の分離』
生産性を下げる元凶であった「事実と意見のチャンポン地獄」。これを解決する方法は至ってシンプルです。「事実」と「意見」を意識的に分けて話すこと。ただ、それだけです。
先ほどの悪い報告例を、この鉄則に沿って改善してみましょう。
【改善例】 「〇〇さん、ご報告です。 【事実として】本日10時、クライアントの担当者様から『提案内容が当方のニーズと違う』という主旨のメールを受信しました。 【私の意見としては】このままでは信頼を損なう可能性があるため、まず認識のズレを解消するために、本日中に電話で直接ヒアリングすべきだと考えますが、いかがでしょうか?」
いかがでしょうか。状況が一目瞭然ですよね。
「クライアントから指摘のメールが来た」という動かせない事実。それに対して、「電話でヒアリングすべきだ」という報告者自身の意見(提案)。
このように分けて伝えるだけで、マネージャーであるあなたは、 「なるほど、メールが来たのは事実なんだな。では、そのメールの内容を転送してくれる?電話の前に、まずはこちらで文面を正確に把握したい」 と、具体的で的確な次の指示を出すことができます。
これは、あなたが指示を出すときも全く同じです。 「【事実として】現在、プロジェクトの進捗が予定より3日遅れている。【私の考えでは】このままでは納期に間に合わないリスクが高いので、AタスクとBタスクの優先順位を入れ替えたい」 このように伝えるだけで、部下は感情的になることなく、客観的な事実として状況を理解し、次のアクションにスムーズに移ることができます。
「事実はこうです。それに対して、私はこう考えます」
このシンプルな型を、ぜひあなたの口癖にしてみてください。チーム内のコミュニケーションから、憶測や感情的な混乱が消え、驚くほどクリアになることをお約束します。
鉄則2:部下の主体性を引き出す『目的と理由の共有』
「丸投げ指示」で失われていたもの、それは仕事の「意味」です。この意味を与え、部下を「作業者」から「プロジェクトの一員」へと意識変革させるのが、この2つ目の鉄則、「目的と理由の共有」です。
先ほどのデータ分析の依頼を、この鉄則で改善してみましょう。
【改善例】 「佐藤くん、少し時間いいかな? 【目的は】今日の16時から始まる役員会議で、Aプロジェクトの予算追加を承認してもらうためです。 【理由として】その承認を得るためには、このプロジェクトがどれだけ売上に貢献しているかを、客観的なデータで示す必要があるので、このデータを15時までに分析してもらえないだろうか」
どうでしょうか。単に「分析しといて」と言われるのとでは、受け取る側の気持ちが全く違うはずです。
「なるほど、自分のこの分析が、プロジェクトの未来を左右する重要な役員会議で使われるのか。ただのデータ入力じゃない、これはプロジェクトの成否に関わる重要な仕事だ」
このように仕事の重要性を理解した部下は、指示された以上のパフォーマンスを発揮しようとします。主体性が生まれ、仕事に工夫を凝らし始めます。これこそが、チームの生産性を本質的に向上させる鍵であり、部下の成長を促すマネジメントの神髄です。
忙しいと、つい「いいから、これやって!」と言いたくなる気持ちは痛いほど分かります。しかし、そこでグッとこらえて、目的と理由を伝える数十秒を惜しまないでください。その数十秒が、数時間、いや数日分の手戻りや確認作業をなくし、何より部下のやる気という、お金では買えない資産を育むのです。
鉄則3:【最強フレームワーク】すべてを解決する『PREP法』

さて、鉄則1「事実と意見の分離」、鉄則2「目的と理由の共有」。この2つを意識するだけでも、あなたのチームのコミュニケーションは大きく改善されるはずです。
そして最後に、これらすべてを統合し、あらゆるビジネスコミュニケーションを劇的に分かりやすくする、最強のフレームワークをご紹介します。それが『PREP(プレップ)法』です。
聞いたことがある方も多いかもしれません。ハンバーガーの具材のように、大事なことを挟み込むことから「ハンバーガーメソッド」や「サンドイッチ法」とも呼ばれます。この型をマスターすれば、あなたはもう「伝え方」で悩むことはなくなるでしょう。
PREP法は、以下の4つの要素で構成されます。
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P = Point(結論):話の要点、一番伝えたいこと
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R = Reason(理由):その結論に至った理由、根拠
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E = Example(具体例):理由を裏付けるための具体例、データ、エピソード
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P = Point(結論):最後のまとめ、相手に促したい行動
この順番で話すだけで、あなたの話は驚くほど論理的で、説得力を持つようになります。
例えば、先ほどのクライアントへの対応報告を、PREP法で再構成してみましょう。
【PREP法による報告例】
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P(結論): 「〇〇さん、Aプロジェクトの件、結論から申しますと、本日中にクライアントへ電話でヒアリングすることを提案します。」
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R(理由): 「なぜなら、クライアントの担当者様から、我々の提案がニーズと異なるとのご指摘をメールでいただいたからです。この認識のズレを放置すると、プロジェクト全体の信頼に関わると考えます。」
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E(具体例): 「具体的には、メールには『ご提案いただいた機能Bはコストに見合わないため、それよりも既存機能Aの改善に注力してほしい』と記載されていました。我々が最重要だと考えていたポイントと、お客様の要望に明確な違いがあることが分かります。」
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P(結論): 「つきましては、改めてクライアントの真のニーズを把握するため、電話でのヒアリングを実施させていただけないでしょうか。15時までにご許可をいただければ、本日中にアクションいたします。」
いかがでしょうか。状況、原因、具体的な事実、そしてネクストアクションの提案まで、わずか1分足らずで完璧に伝えることができます。これなら、受け取ったマネージャーは「OK、その方向で進めてくれ」と即座に判断を下せますよね。
PREP法は、報告だけでなく、会議での発言、提案、依頼など、あらゆる場面で応用可能です。慣れるまでは、話す前にこの4つの項目をメモに書き出すトレーニングがおすすめです。これを繰り返すうちに、あなたの頭の中に「PREP法の思考回路」がインストールされ、意識せずとも論理的な話ができるようになります。
おわりに:完璧な伝え方より、伝えようと努力する姿を

今回ご紹介した3つの鉄則、「事実と意見の分離」「目的と理由の共有」「PREP法」。
これらを実践すれば、あなたの指示は驚くほど明確になり、チームの生産性は確実に向上するはずです。手戻りが減り、会議の時間が短縮され、部下が主体的に動くようになる。その結果、あなたはマネージャーとして本来やるべき、より創造的な仕事に時間を使えるようになります。
しかし、何より大きな変化は、部下との信頼関係が深まることです。
あなたの明確なコミュニケーションは、「このリーダーは、私たちを正しく導こうとしてくれている」「私たちのことを、単なる作業者ではなく、共にゴールを目指すパートナーとして見てくれている」という安心感と信頼をチームに育みます。
もちろん、私自身もまだまだ道半ばです。忙しさにかまけて雑な指示を出してしまい、後で「ああ、またやってしまった…」と反省することもあります。
だから、あなたにも完璧を求めたいわけではありません。
大切なのは、完璧にできることではなく、「より良く伝えよう」と努力し続けるその姿勢です。その姿は、必ず部下に伝わります。そして、リーダーが自ら変わろうと努力するチームは、必ず良い方向へと変わっていくのです。
まずは、この記事を閉じた後、一番小さなアクションから始めてみませんか。
例えば、明日の朝礼で、今日の共有事項をPREP法で話してみる。 例えば、部下に仕事を頼むとき、「この仕事の目的はね…」と一言付け加えてみる。
その小さな一歩が、あなたのチームを、そしてあなた自身を、大きく成長させるきっかけになることを、心から願っています。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
コミュニケーション力を向上させるための考え方を学ぶためのゲームを5分で開発しました。ここから是非遊んでみてください。
