資金なし、人なし、知名度なし…そんな中小企業が大手に勝つための秘策は2500年前の古典にありました。孫子の兵法「虚実篇」を活用し、価格競争から脱却して市場の主導権を握る方法を、具体的なカフェの事例を交えて徹底解説します。
この記事は2025年7月11日に Podcast で配信した音声を文字起こし したものになります。 Podcast も合わせてお聞きください 。より理解が深まると思います。
はじめに:なぜ今、経営者が「孫子の兵法」を学ぶべきなのか?
2025年、夏の参議院選挙が熱を帯びる中、メディアは連日政治の話題で持ちきりです。特に、国際情勢に目を向ければ、アメリカの動向から目が離せません。トランプ大統領が仕掛けた高関税政策など、その予測不能な一手一手に、世界中の政治家や経済アナリスト、そして我々経営者が固唾を飲んで見守っています。
彼のX(旧Twitter)での発信一つで市場が揺れ動き、昨日まで友好的だった国に突然牙をむく。その姿は、まさに「何をしでかすか分からない」という印象を与えます。これは単なるパフォーマンスなのか、それとも緻密に計算された戦略なのか。様々な憶測が飛び交う中、私はふと、20歳の頃に手にした一冊の古い本を思い出しました。
それは、ページをめくるのもやっとなくらい読み込んだ、ボロボロの『孫子の兵法』です。パラパラとページをめくっていると、ある一節で手が止まりました。
「これは…まさにトランプ氏がやっていることそのものではないか?」
そこに書かれていたのは、「虚実篇(きょじつへん)」と呼ばれる、戦いの主導権を握るための極意でした。
一見、現代のビジネスとは無関係に思える2500年前の兵法書。しかし、そこには、資金も人材も知名度も不足しがちな中小企業が、リソースで勝る大手企業と渡り合い、市場で生き残るための普遍的な知恵が詰まっていたのです。

本記事では、この「孫子の兵法・虚実篇」の本質を紐解き、現代の中小企業経営にどのように応用できるのかを、具体的なシミュレーションを交えながら徹底的に解説していきます。
もしあなたが、「大手との価格競争に疲弊している」「自社の強みを生かした戦い方がしたい」と感じているなら、この記事は必ずや突破口を見出すための一助となるはずです。
第1章:戦いの主導権を握る「虚実篇」の教えとは?

まず、『孫子の兵法』の中でも特に戦略の神髄とされる「虚実篇」が、何を教えているのかを見ていきましょう。私が手にしている守屋洋氏の書籍『「孫子」の兵法がわかる本』には、このように記されています。
戦いを有利に進めるには、何よりもまず主導権を握ることだ。すなわち、相手の作戦に乗らず、こちらの作戦に乗せなければならない。
進撃するときは、敵の手薄なところを突くことだ。そうすれば敵は防ぎきれない。退却するときは、迅速にしのび去ることだ。そうすれば敵は追撃しきれない。(中略)
水が高いところを避けて低いところに流れていくように、戦いも充実した敵は避けて、相手の手薄なところを突いていくべきだ。水に一定の形がないように、戦いにも普遍の態勢はあり得ない。敵の態勢に応じて変化してこそ、絶妙の用兵といえる。
要約すると、「常に自分から仕掛け、戦いの主導権を握れ。相手の土俵で戦うのではなく、自分の土俵に相手を引きずり込め」ということです。
「虚」とは相手の弱点や手薄な部分、「実」とは相手の強みや充実した部分を指します。賢い将軍は、敵の「実」を巧みに避け、その「虚」を徹底的に突くことで、最小限の力で最大限の戦果を挙げるのです。
孫子はこうも言います。 「敵より先に戦場におもむいて相手を迎え撃てば、余裕をもって戦うことができる。逆に、敵より遅れて戦場に到着すれば、苦い戦いを強いられる」
これはまさに、先手必勝の重要性を説いています。常に先を見越し、相手が予測しない手を打ち続けることで、相手を混乱させ、疲弊させ、こちらのペースに巻き込んでいく。トランプ氏の政治手法がしばしば有効に見えるのは、彼がこの「虚実」を巧みに使い分け、世界中を自分のペースに巻き込んでいるからに他なりません。
では、翻って日本の状況はどうでしょうか。国際的な貿易戦争において、私たちはただ振り回されているだけに見えませんか?明確な戦略を持ち、主導権を握ろうとしているでしょうか。
この問いは、そのまま我々中小企業の経営に置き換えることができます。
第2章:なぜ「虚実篇」は中小企業の最強の武器となるのか?

「お金がない、人がいない、ノウハウがない、知名度がない…」 多くの中小企業経営者が抱える「ないない尽くし」の悩み。リソースで圧倒的に勝る大手企業と同じ戦い方をしていては、勝ち目はありません。
例えば、大手企業が大規模な値下げキャンペーンを仕掛けてきたとします。ここで我々が同じように値下げで対抗すれば、どうなるでしょうか?答えは明白です。体力勝負の消耗戦に引きずり込まれ、先に倒れるのは間違いなく我々中小企業です。
これこそが、相手の「実」、つまり相手の土俵(資本力)で戦ってしまう典型的な失敗例です。
「虚実篇」の教えは、こうした状況でこそ真価を発揮します。 我々が突くべきは、大手の「虚」です。では、大手企業の「虚」とは一体何でしょうか?
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小回りが利かない、意思決定が遅い
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顧客一人ひとりへの細やかな対応が難しい
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マニュアル化され、遊びやユニークさに欠ける
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地域との密接なつながりが薄い
これらの「虚」こそ、我々中小企業が攻め込むべきポイントなのです。価格(Price)で勝負するのではなく、それ以外の価値(Value)で勝負する。大手ができないこと、やらないことを先手で仕掛け、独自の土俵を創り出す。これこそが、中小企業が取るべき「虚実篇」の戦略です。
では、具体的にどのように実践すれば良いのでしょうか?ここからは、ChatGPTのAIアシスタントの「ミーキー」に協力してもらい、あるシチュエーションを想定したロールプレイング形式で見ていきましょう。
第3章:【実践編】小さなカフェ vs 大手チェーン店 〜孫子の兵法でどう戦うか?〜

ここからは、私が小さなカフェのオーナー、AIのミーキーが競合となる大手チェーン店のオーナー役となり、具体的な戦略をシミュレーションしていきます。
《状況設定》 あなたは、地域に根ざした小さなカフェの経営者です。品質の高い豆を使い、一杯一杯ハンドドリップで丁寧に淹れるコーヒーと、温かみのある接客が自慢。しかし、すぐ近くに全国展開する大手コーヒーチェーン店があり、常に価格の安さと知名度で脅威となっています。
ミキ(大手オーナー): 「さて、うちの店では今週、新たなキャンペーンを打ち出しますよ!『今週限定!全品20% OFFキャンペーン!』です。これで一気に顧客を囲い込んでみせます。さあ、テルヤさんのカフェはどう対抗しますか?」
テルヤ(小さなカフェオーナー): 「うーん、これは厳しいですね…。うちのような個人店で20%も値引きしたら、利益がほとんど吹き飛んでしまいます。かといって何もしなければ、お客様はみんな向こうに流れてしまう…」
(心の声:ここで価格競争に乗ってはいけない。それは相手の『実』に飛び込む自殺行為だ。『虚実篇』の教えを思い出せ…相手の意表を突き、こちらの土俵に引きずり込むんだ!)
テルヤ(小さなカフェオーナー): 「…よし、決めた!ミキさん、うちは値下げはしません。その代わり、『40%価値アップキャンペーン』をやります!」
ミキ(大手オーナー): 「ほう、『40%価値アップ』とは、どういうことですかな?」
テルヤ(小さなカフェオーナー): 「はい。うちは価格では大手さんに太刀打ちできません。ですから、価値で勝負します。そして、こんな風にお客様に呼びかけるんです」
(以下、SNSや店頭POPでの告知文をイメージ)
【近隣の大手カフェさん、今週20%OFFですって!(正直うらやましい!)】
いつもご来店ありがとうございます!小さなカフェのオーナー、テルヤです。
なんと、お隣の大手カフェさんが今週、全品20%OFFの太っ腹キャンペーンを開催中です!
正直なところ、「今週はお財布がちょっと厳しいな…」という方は、ぜひ大手カフェさんに行ってみてください!本当にお得だと思います。
私たちのカフェは、残念ながら同じような値引きはできません。 その代わり、私たちは【40%の価値アップキャンペーン】で勝負します!
大手カフェさんで20%節約したそのお金で、来週、私たちのカフェでちょっとだけ贅沢しませんか?
今週、うちのカフェに来てくださったお客様には、
など、価格以上の特別な「価値」をご提供します!
今週は大手さんでお得に。そして来週は、浮いたお金で、うちで心からの贅沢な時間を。 そんな賢いカフェの使い分け、いかがでしょうか?
#大手さんありがとう #賢いカフェ巡り #価値で勝負
ミキ(大手オーナー): 「な、なんだそのキャンペーンは…!?うちのキャンペーンを逆宣伝に使うなんて…!しかも、敵対するのではなく、お客様に選択を委ねる形を取ることで、自社のスタンスを明確に示している。これは…面白い!」
テルヤ(小さなカフェオーナー): 「ありがとうございます。これが、うちの『虚実篇』です。価格という『実』で戦うことを避け、『品質へのこだわり』『温かみのあるサービス』『ユニークな体験』という、大手さんにとっては『虚』となる部分を徹底的に突いた戦略です」
ミキ(大手オーナー): 「なるほど。正直に自分たちの立場を伝えつつ、価値で勝負するという姿勢は、お客様に誠実な印象を与えますね。価格だけで動く顧客ではなく、あなたのお店のファンになってくれる固定客が増えるかもしれない。これは見事な一手です。参りました」
第4章:あなたのビジネスに「虚実篇」を応用するヒント

いかがでしたでしょうか。このカフェの事例は、あくまで一例です。しかし、この考え方はあらゆる業種に応用が可能です。
重要なのは、「敵を知り、己を知れば、百戦殆(あやう)からず」という孫子のもう一つの有名な言葉通り、まずは自社と競合を徹底的に分析することです。
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競合(大手)の「実」は何か? (例: 資本力、価格、知名度、大量生産能力)
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競合(大手)の「虚」は何か? (例: スピードの遅さ、顧客対応の画一性、ニッチ市場への未対応)
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自社の「実」は何か? (例: 技術力、専門性、顧客との近さ、スピード、柔軟性)
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自社の「虚」は何か? (例: 資金力、知名度、営業力)
この分析に基づき、「自社の『実』をもって、相手の『虚』を突く」戦略を立案するのです。
例えば、
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建設業なら: 大手が敬遠するような小規模で特殊な修繕案件に特化し、「どんな小さな工事でも迅速に対応する専門家」という地位を築く。
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IT企業なら: 大手が提供するパッケージソフトの「虚」(カスタマイズ性の低さ)を突き、特定業種に特化したオーダーメイドのシステム開発で勝負する。
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小売店なら: 大量仕入れによる安さを「実」とする大手に対し、生産者の顔が見えるストーリー性のある商品や、店主自らが目利きしたセレクト商品を「実」として戦う。
かつて、バーガーキングがマクドナルドの店舗のすぐ近くに「マックの直火焼き(Flame-Grilled by McDonald's)」と誤解させるような広告を出して話題になったことがありました。これも、王者の知名度(実)を逆手に取った、ユーモアあふれる「虚」を突く戦略と言えるでしょう。
遊び心と戦略性を持ち、相手の動きを読んで先手を打つ。これこそが、リソースで劣る我々が市場で主導権を握るための鍵なのです。
まとめ:お金を使う前に、頭を使おう

本日は、古代中国の兵法書『孫子の兵法・虚実篇』を、現代の中小企業経営に応用する方法について解説しました。ぜひあなたも孫子の兵法、学んでみてください。
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