先行き不透明なVUCA時代。本記事では、経営の新たな羅針盤となる「ストーリー思考」の重要性を徹底解説します。
企業の存在意義を明確にし、社員や顧客との深い共感を築き、変化を乗り越える力を生み出す「物語の力」とは?具体的な実践法や成功事例も交え、あなたのビジネスを成長させるヒントを提供します。
VUCA時代を勝ち抜く「ストーリー思考」とは?企業の羅針盤となる物語の力を徹底解説
はじめに:先の見えない時代、あなたの会社の「羅針盤」は明確ですか?
変化の激しい現代において、ビジネスの舵取りに難しさを感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。「社員や顧客に、自社の進むべき方向や想いを、どうすればもっと魅力的に伝えられるのだろうか?」そんな悩みを抱えていませんか?
本日のポッドキャストでお話ししたテーマは、まさにこの課題に対する一つの答えとなり得るものです。それは、「ストーリー思考」。
なぜ今、経営にこのストーリー思考が不可欠なのか、そしてそれがVUCA時代における企業の「羅針盤」として、いかに強力な物語の力を持つのか。
ポッドキャストでお伝えした内容を深掘りし、具体的な事例や実践のヒントを交えながら、詳しく解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたの会社を動かす新しい羅針盤、そして社員や顧客の心を掴む「物語の力」の可能性に気づいていただけると思います。
この記事は2025年6月6日にポッドキャストにて配信した音声を元に作成しています。ポッドキャストも合わせてお聞きください。
本記事のポイント
1. VUCA時代とはか?現代経営が直面する「視界不良」
まず、現代の経営環境を理解する上で欠かせないキーワードが「VUCA(ブーカ)」です。これは、以下の4つの英単語の頭文字を取った造語です。

- Volatility(変動性):変化が激しく、予測が困難な状態。
- Uncertainty(不確実性):将来の出来事や結果が不明確な状態。
- Complexity(複雑性):多数の要因が絡み合い、因果関係が把握しにくい状態。
- Ambiguity(曖昧性):事態が多義的に解釈でき、明確な判断が難しい状態。
このVUCAという概念は、元々1990年代に米軍で軍事戦略を語る際に用いられた言葉ですが、2010年代以降、急速に変化するビジネス環境を表す言葉としても広く使われるようになりました。
まさに、現代は市場の変動、技術革新のスピード、顧客価値観の多様化など、あらゆる側面で予測が難しく、従来の経験や分析だけでは対応しきれない課題に満ちています。
VUCAがビジネスに与える具体的な影響
経営コンサルタントの多くは、VUCA環境下では、企業は以下のような影響を受けると指摘しています。

- 戦略策定の困難化: 長期的な市場予測が難しくなり、固定的な事業計画が機能しにくくなる。
- 意思決定の遅延: 不確実性や複雑性が高まることで、情報収集や分析に時間がかかり、迅速な意思決定が阻害される。
- イノベーションの必要性の増大: 既存のビジネスモデルが急速に陳腐化するリスクがあり、常に新しい価値創造が求められる。
- 組織・人材マネジメントの変革: 変化に柔軟に対応できる組織文化や、自律的に行動できる人材の育成が急務となる。
私自身も、例えば「うるま市観光物産協会」でYouTube番組の企画会議を行った際、過去のデータを分析しながらも、常に変化する社会情勢や観光客のニーズを捉え、新しいコンセプトを打ち出すことの難しさと重要性を痛感しました。
データは過去を示すものですが、未来を創るには、データから変化の兆しを読み取り、新たな方向性を示す必要があります。
2. 「ストーリー思考」とは何か?人の心を動かし、記憶に残す力
では、このようなVUCA時代において注目される「ストーリー思考」とは一体何なのでしょうか?

これは、単に面白い話をする、聞き心地の良い言葉を並べるということではありません。ストーリー思考とは、情報や出来事に意味と文脈を与え、人の感情を動かし、そして記憶に深く刻み込むための思考法であり、コミュニケーション技術です。
私たちは、論理やデータだけではなかなか心が動きませんが、そこに「物語」が存在すると、自然と引き込まれ、共感し、そしてそのメッセージが記憶に残りやすくなります。これが、ストーリーが持つ本質的な力です。
ストーリーが持つ心理学的効果
- 感情への訴求: 物語は、喜び、悲しみ、怒り、共感といった感情を呼び起こします。心理学者のダニエル・カーネマン氏が提唱したように、人間の意思決定は合理的思考(システム2)だけでなく、直感的・感情的思考(システム1)に大きく影響されます。ストーリーはまさにこのシステム1に強く働きかけます。
- 記憶の強化(エピソード記憶): 単なる事実の羅列よりも、登場人物、葛藤、解決といった要素を持つ物語の方が、脳は「エピソード記憶」として鮮明に記憶しやすいと言われています。
- 共感と信頼の醸成: 物語を通じて主人公の感情や経験を追体験することで、聞き手は話し手やそのメッセージに対して共感や信頼感を抱きやすくなります。これは、他者の感情を理解し共感する能力に関わる「ミラーニューロン」の働きとも関連付けられています。
- 行動変容の促進: 強い共感を伴う物語は、人々の価値観や信念に影響を与え、具体的な行動変容を促す力を持っています。
私自身、13年以上にわたり中小企業経営者向けのブランディング支援、特にウェブサイト制作を通じてブランド力強化をお手伝いする中で、この「ストーリー」の重要性を痛感してきました。
クライアントである経営者自身が持つ創業の想い、乗り越えてきた困難、製品やサービスに込めた情熱といったエピソードを丁寧に引き出し、ターゲット顧客に響く「物語」として再構築すること。これが、共感を呼び、ブランドの価値を高める上で最も重要なプロセスだと考えています。
3. なぜストーリー思考がVUCA時代の「羅針盤」となるのか?3つの具体的理由
では、なぜこのストーリー思考が、視界不良のVUCA時代において、経営の「羅針盤」としてこれほど強力な力を発揮するのでしょうか。ポッドキャストでは3つの大きな理由を挙げました。

(1) 複雑な状況を整理し、進むべき道を明確に示せるから
情報が溢れ、何が本質か見えにくい現代において、自社の存在意義、つまり「なぜ私たちはこの事業を行っているのか(Why)」そして「どこへ向かおうとしているのか(Vision)」を、一本の筋の通った物語として語ること。これが極めて重要です。
この「Why」の追求は、コンサルタントのサイモン・シネック氏が提唱する「ゴールデンサークル理論」の中心概念でもあります。彼は「人は何を(What)ではなく、なぜ(Why)に動かされる」と説き、優れたリーダーや企業は、自らの信念や目的(Why)から語り始めると指摘しています。
この「Why」を核とした物語は、複雑な状況下でも組織が進むべき方向を照らし出し、社員、顧客、そして経営者自身にとっても明確な指針となります。「私たちは何をするべきか(What)」の前に、「私たちはどうありたいのか(How/Being)」「なぜ社会に存在するのか(Why)」を物語として定義することで、羅針盤のようにブレない軸が生まれるのです。
(2) 変化への適応力と組織の求心力を高めることができるから
変化が当たり前のVUCA時代において、その変化を「脅威」や「恐れ」として捉えるのではなく、「新しい物語の始まり」として捉えられたらどうでしょうか。
経営者が未来への希望を具体的な物語として語ることで、社員の不安を和らげ、前向きなエネルギーを引き出すことができます。
共通の目的や価値観を内包した物語は、組織の一体感を醸成し、困難にも共に立ち向かえる強いチームを育みます。
例えば、コロナ禍において多くの企業が売上激減という危機に直面しました。私自身の会社も例外ではなく、予定していた売上が一気に消え去るという経験をしました。しかし、その時、「とにかく何か新しいことをやろう」とスタッフと共にブログ発信を強化した結果、Zoom関連の記事が大きなアクセスを集めました。
さらに、観光客が激減したクライアント向けに、ECサイト構築を制作費無料(売上に応じたレベニューシェア)で提案したところ、その商品が大ヒットし、結果的に失った売上を数ヶ月で取り戻す以上の成果を上げることができました。
この経験は、私たちにとって「危機を乗り越え、新たな価値を生み出した物語」として、組織の自信と結束力を高める貴重な財産となっています。
このような「逆境を乗り越える物語」は、組織のレジリエンス(精神的回復力・再起力)を高める上で非常に有効です。
(3) 社内外のステークホルダーとの深いエンゲージメントを築けるから
エンゲージメントとは、従業員であれば「会社への愛着や貢献意欲」、顧客であれば「ブランドへの愛着や信頼」を意味します。このエンゲージメントは、現代経営において極めて重要な指標です。
お客様は、単に良い商品やサービスを求めているわけではありません。その背景にある想いや企業の姿勢、社会に対する貢献といった「物語」に共感したときに、初めて熱心なファンとなってくれます。
これは社員も同様で、自社の理念やパーパス(存在意義)が、心に響く物語として語られることで、「この会社で働く意味」を実感し、モチベーションが向上します。
Apple社の例を出すまでもなく、創業者のスティーブ・ジョブズ氏が語った製品開発の物語や世界を変えるというビジョンは、多くの熱狂的なファンを生み出し、社員を鼓舞しました。
彼のパーソナルストーリーや製品に込められた物語が、Appleというブランドの強力な求心力となっていたのです。(近年のAppleにその勢いが薄れているように感じるのは、もしかしたら新たな強力な物語が不在だからかもしれません。)
投資家や地域社会に対しても同様です。私たちの事業が社会にどのような価値を生み出し、どのような未来を目指しているのか、その物語を誠実に伝えることで、より強い信頼関係と支援の輪を築くことができるのです。
エンゲージメントと企業業績の関係
多くの調査研究が、従業員エンゲージメントや顧客エンゲージメントの高さが、企業の生産性、収益性、顧客満足度、離職率の低下などに正の相関があることを示しています。
例えば、米ギャラップ社の調査では、エンゲージメントの高い従業員は低い従業員に比べて生産性が高く、欠勤率や離職率が低いという結果が出ています。ストーリーは、このエンゲージメントを高めるための効果的な手段と言えるでしょう。
4. ストーリー思考を経営に取り入れるための実践的な第一歩
では、この「ストーリー思考」を、具体的にどのように経営に取り入れていけば良いのでしょうか。決して難しく考える必要はありません。今日からでも始められる、いくつかのヒントをお伝えします。

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自社の「原点の物語」を再発見する
- なぜこの会社を立ち上げたのか?
- どんな想いでこの事業を始めたのか?
- 創業時にどんな困難があり、どう乗り越えたのか? 経営者自身が、これらの問いに改めて向き合い、自社の「創業ストーリー」を言葉にしてみましょう。
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社員や顧客のエピソードに耳を傾け、共有する
- 社員が経験した小さな成功談や、お客様に喜ばれたエピソード。
- 困難を乗り越えたチームの体験談。 これらは全て、組織の貴重な「物語の種」です。会議の冒頭や朝礼、社内報などで、数字だけでなく、こうした背景にある「想い」や「努力のプロセス」を物語として共有するだけでも、社内の空気は変わってくるはずです。
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「Why(なぜ)」を常に意識して語る
- 新しいプロジェクトを始める際、「何をやるか(What)」だけでなく、「なぜそれをやるのか(Why)」を明確に語る。
- 企業のミッションやビジョンを、抽象的な言葉だけでなく、具体的なエピソードや目指す未来の情景が目に浮かぶような物語として伝える。
私自身の創業エピソードも、ストーリー思考を実践する上での一つの例かもしれません。2016年、母親が末期の脳腫瘍と診断されたことを機に、東京から沖縄に戻りました。創業エピソードの詳細はnoteに記載しています。
当初は会社員としてリモートワークをさせてもらいながら介護をしていましたが、「働きたくても様々な事情で働けない人がいるのではないか」「母親が意識のあるうちに親孝行をしたい、それは自分にとって独立することだ」という想いが強くなりました。
母親にとって、息子が一人前になることが、自分の子育てが間違っていなかった証になると考えたのです。その想いを社長に伝えたところ、応援していただき、2018年に会社を設立するに至りました。
この「創業の物語」は、私が事業を行う上での原動力であり、多くの方に共感していただくきっかけにもなっています。
5. 困難や失敗さえも「物語のネタ」に変わる
逆境を成長の糧とする力
最後に、ストーリー思考を持つことのもう一つの大きなメリットをお伝えします。それは、直面する困難や失敗さえも、将来の成功物語を彩る貴重な「エピソード(ネタ)」として捉えられるようになることです。

日々の経営では、予期せぬトラブルや、計画通りに進まないこと、時には「もうダメかもしれない」と感じるような困難に直面することもあるでしょう。しかし、そうした経験こそが、物語に深みを与え、聞く人の心を揺さぶるドラマを生み出すのです。
感情の起伏、葛藤、そしてそれを乗り越えた先の喜びや学び。これら全てが、あなたの会社、そしてあなた自身の「物語」を構成する重要な要素となります。
- 1500万円の会社のトラックをガジュマルの木にぶつけて廃車にした話。
- 任されたラーメン事業で2度も水漏れを起こした話。
- ペット火葬車が新都心で火柱が上がり消防車4台が出動する騒ぎになった話。
これらは私の過去の失敗談ですが、今となっては笑い話であり、そこから得た教訓は今の経営に活かされています。まさに、「感情の起伏こそが、素敵な物語を作る」のです。
困難な状況にある時こそ、「これは未来の成功物語を作るための貴重な取材期間だ」と捉えてみてはいかがでしょうか。そうすれば、どんな状況も前向きに乗り越えるエネルギーが湧いてくるかもしれません。
まとめ:あなたの会社は、どんな物語を紡ぎますか?
本日は、「なぜ今、経営にストーリー思考が不可欠なのか?VUCA時代の羅針盤となる物語の力」というテーマでお話ししてきました。
変化が激しく、先行き不透明なVUCA時代において、人の心を動かし、進むべき方向を明確に示し、組織を一つにする「物語の力」は、経営の羅針盤としてますますその重要性を増しています。
あなたの会社は今、どんな物語を紡いでいますか?そして、これからどんな物語を紡いでいきたいですか?
ぜひ一度立ち止まって、あなたの会社の「物語」について考えてみてください。そして、それを社員や顧客、関わる全ての人々と共有してみてください。そこから、新しい未来が拓けるかもしれません。