「顧客の立場になれ」と言われても、どうすれば?本記事では、マーケターが顧客心理を深く理解し、戦略に活かすための強力なツール「エンパシーマップ」を徹底解説。具体的なケーススタディを通じて、作成手順から活用方法まで、実践的なステップを分かりやすくご紹介します。顧客インサイトを発見し、共感を呼ぶマーケティングを実現しましょう。
「どんなお仕事でも大事な考え方があります。それは相手の立場になることです。」
マーケティングの世界においても、この原則は決して揺るぎません。私たちは日々、「顧客のニーズに応えたい」「顧客を満足させたい」と考え、様々な戦略を練っています。しかし、頭では理解していても、「本当に顧客の気持ちを深く理解できているのか?」と自問自答するマーケターも少なくないのではないでしょうか。
「もっと相手のことをよく考えなさい」
上司や先輩からそう言われることはあっても、「具体的にどう考えればいいのか?」その方法論は曖昧模糊としていることが多いものです。自分なりに顧客のことを考えているつもりでも、「それ、ちょっと考え浅くないか?」と指摘された経験を持つ方もいるかもしれません。
私もかつて上司から「お前、考えが浅い」と言われた経験があります。「考えてるけど、浅いってどういうこと?深く考えるってどういうこと?」当時の私は、その言葉の意味を深く理解できずにいました。
「考える」という行為には、深さがあります。表面的な部分しか捉えられていないのか、それとも、もっと深く深く掘り下げて本質に迫っているのか。この「考える深さ」は、個人の経験やトレーニングによって大きく左右されるものです。
特に、クライアントワークに携わるウェブサイト制作の現場では、クライアントの立場はもちろんのこと、その先にいるエンドユーザーの視点を深く深く掘り下げて考える必要があります。そうでなければ、真に価値のある提案や成果を生み出すことは難しいでしょう。
では、一体どうすれば「深く考える」ことができるのでしょうか?今日のポッドキャストでは、そのための強力なツールとして「エンパシーマップ」を紹介しました。
この記事は2025年4月19日に配信したポッドキャストベースに作成しています。ポッドキャストも合わせてお聞きください。
共感の視覚化 - エンパシーマップとは?
「エンパシーマップって聞いたことありますでしょうか?」
ジャーニーマップやペルソナといった言葉は聞いたことがある方もいるかもしれませんが、エンパシーマップは、顧客やユーザーをより深く理解するための視覚的なツールです。
エンパシーマップを活用することで、まるでその人の靴を履いて世界を見ているかのように、より共感的な視点から対象者を捉えることができます。それは、単なる属性情報や行動データだけでは見えてこない、内面的な感情や思考、そして潜在的なニーズを明らかにするための強力な武器となるのです。
エンパシーマップの構成要素 - 顧客を多角的に理解する
エンパシーマップは、中心にペルソナを配置し、その周囲を以下の6つの要素で構成します。

- 考えていること・感じていること (Thinking & Feeling): その人が心の中で何を考え、どんな感情を抱いているのかを想像します。不安、期待、喜び、悩みなど、内面的な動きを捉えます。
- 見ていること (Seeing): その人が普段どのような環境に身を置き、何を見ているのかを想像します。職場、家庭、友人、メディア、競合製品など、視覚的な情報源を考慮します。
- 聞いていること (Hearing): その人が周囲からどのような情報や意見を聞いているのかを想像します。家族の言葉、同僚の会話、ニュース、SNSのコメント、業界の噂など、耳から入る情報を捉えます。
- 言っていること・行っていること (Saying & Doing): その人が実際に口にしている言葉や、普段どのような行動をとっているのかを観察・推測します。発言内容、態度、行動パターン、購買履歴などを捉えます。
- 苦痛 (Pains): その人が抱えている悩み、不満、恐れ、障害などを特定します。目標達成の妨げになっていること、ネガティブな感情を引き起こす要因などを深掘りします。
- 欲求 (Gains): その人が求めていること、得たいと思っていること、目標などを特定します。願望、ニーズ、成功の定義などを明らかにします。
エンパシーマップがもたらす4つの効果
エンパシーマップを作成することで、マーケターは以下のような重要な効果を得ることができます。

- 顧客理解の深化: 表面的なデータだけでは捉えきれない、顧客の深層心理や潜在的なニーズを理解することができます。これにより、より本質的な課題解決や価値提供に繋がる洞察が得られます。
- チーム間の共通認識: ワークショップ形式でエンパシーマップを作成することで、チームメンバー間で顧客像に対する共通認識を持つことができます。これにより、コミュニケーションが円滑になり、一貫性のある戦略実行が可能になります。
- より良い意思決定: 顧客の視点を戦略の中心に据えることで、製品開発、マーケティングメッセージ、顧客サポートなど、あらゆる側面において、より顧客にとって価値のある、適切な意思決定を行うことができます。
- 共感力の向上: 顧客の立場になって考えるプロセスを通じて、チーム全体の共感力が高まります。これにより、顧客中心の組織文化が醸成され、顧客との長期的な信頼関係構築に繋がります。
実践!ケーススタディで学ぶエンパシーマップの作成と活用
エンパシーマップの具体的な作成手順と活用方法を理解するために、私自身の体験に基づいたケーススタディをご紹介します。

ペルソナ: 44歳、小学3年生の娘を持つ父親「てるやさん」
状況: 土曜日の朝7時30分に娘のバスケットボールの練習試合があり、お弁当を用意する必要があるが、朝早く時間がなくコンビニでおにぎりとチキンを買うことに。しかし、目当てのファミチキがどのコンビニにもなく、ようやく手に入れた代替品に娘はがっかりしてしまう。
この状況における「てるやさん」のエンパシーマップを、ポッドキャストの内容に基づいて具体的に見ていきましょう。
考えていること・感じていること (Thinking & Feeling):
- 「朝早いな…眠い」
- 「お弁当作ってあげたいけど時間がない」
- 「コンビニで済ませるのは手抜きかな…」
- 「娘は喜んでくれるかな?」
- 「ファミチキが良いって言ってたな」
- (在庫切れで買えなかった時)「どこに行けばあるんだ?」
- (フラチキを買った時)「これで我慢してくれるかな…」
- (娘ががっかりした時)「申し訳ないな…」
見ていること (Seeing):
- 寝室の時計(時間がないことを意識)
- コンビニのお弁当やお惣菜コーナー
- コンビニの店員
- 他の買い物客(忙しそうにしている)
- 娘の少し不満そうな顔
- 娘の持っているバスケットボール
聞いていること (Hearing):
- 目覚ましの音
- 娘の「ファミチキがいい!」という声
- コンビニの店内アナウンス
- コンビニ店員の「申し訳ございません、チキンは品切れです」という言葉
- 娘の「えー、骨があるの嫌だ…ファミチキがよかった…」というがっかりした声
言っていること・行っていること (Saying & Doing):
- 「しょうがないな、コンビニで買ってくか」
- コンビニでおにぎりとチキンを探す
- 店員に「チキンありますか?」と尋ねる
- いくつかのコンビニを回る
- 「これしかないか…」とフラチキを手に取る
- 娘に「はい、お弁当だよ」と渡す
- 娘に「ごめんね、ファミチキなかったんだ」と謝る
苦痛 (Pains):
- 朝早く起きるのがつらい
- お弁当を作る時間がないことへの罪悪感
- 娘の期待に応えられないかもしれない不安
- コンビニを何軒も回る手間
- 娘ががっかりしてしまったことへの申し訳なさ
欲求 (Gains):
- 娘に喜んでほしい
- 手軽にお弁当を用意したい
- 時間に余裕を持って朝を過ごしたい
- 娘の練習試合を応援したい
- 娘との関係を良好に保ちたい
このエンパシーマップから、忙しい朝に子供のために手軽にお弁当を用意したい親のニーズ、特定の人気商品への強いこだわり、親が子供の期待に応えられないことへの罪悪感、コンビニエンスストアの品切れリスクといった、様々なインサイトが見えてきます。
洞察をマーケティングへ - 具体的な活用例
このケーススタディから得られた洞察は、様々なマーケティング施策へと繋げることができます。
- 商品開発: 冷凍のお弁当おかずセットや、特定のコンビニエンスストアで確実に手に入る子供向け人気商品セットなどを開発する。「忙しいパパママのための、朝の応援チキン&おにぎり確約セット」のような商品があっても良いかもしれません。
- 情報提供: コンビニエンスストアの在庫情報をリアルタイムで提供するアプリやサービスを開発する。「今、〇〇店の人気チキンは在庫あり!」といったプッシュ通知は、忙しい親にとって非常に有益な情報となるでしょう。
- マーケティング: 「時間がないけど愛情はたっぷり伝えたい」という親のインサイトに訴求するメッセージングを展開する。特に、子供に人気の商品の在庫状況を積極的に告知することも有効です。例えば、朝の忙しい時間帯にSNSで「〇〇店、ファミチキあります!」と発信するだけでも、来店動機に繋がる可能性があります。
- 顧客体験の向上: 事前に予約できるお弁当サービスや、店舗受け取りサービスなどを提供することで、品切れのリスクを減らし、顧客の利便性を高めることができます。
エンパシーマップをあなたのビジネスに
エンパシーマップは単なる顧客情報の整理ツールではなく、顧客の状況、感情、そして潜在的なニーズを深く理解するための強力なフレームワークです。
「顧客の気持ちが本当にわかる」マーケターになるために、まずはエンパシーマップを作成してみませんか?チームでワークショップ形式で取り組むことで、より多角的な視点を取り入れることができ、顧客理解を深めるための第一歩となるはずです。
忙しい日々の業務の中で、立ち止まって顧客の心に耳を傾ける時間を持つこと。それこそが、真に顧客に響くマーケティング戦略を生み出すための、最も重要なことです。
あなたもエンパシーマップを活用して、顧客との深い共感を築き、ビジネスを次のステージへと導きましょう!
BrandBuddyzではエンパシーマップを活用したWebサイト制作やマーケティング戦略の立案支援のワークショップを行っております。興味のある方やご相談はこちらの問い合わせフォームからお願いします。